2019年F1を戦う全10チーム20人を紹介 その1 レッドブル・ホンダ
さて今回から、3月17日に開幕する2019年のF1シリーズを戦う、全10チーム20人のドライバーを順に紹介していく。
第一回は、今、AVL社との決別と振動問題で話題となっている、ホンダエンジンを搭載するレッドブルチームだ。
- 歴史は浅いが輝かしい戦績を持つレッドブル
- レッドブルの2018シーズンの成績は?
- 2019シーズンを戦うレッドブルのドライバー
- 新規一転、ホンダのワークスPU搭載
- レッドブル・ホンダの2019シーズン展望
歴史は浅いが輝かしい戦績を持つレッドブル
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エナジードリンクでおなじみの”レッドブル”が所有するこのF1チーム(正式名称はAston Martin Red Bull Racing)は、2005年にジャガー・レーシングを買い取ってF1に参戦開始した。
比較的若いコンストラクターではあるが、14年間でタイトル獲得4回、優勝回数55回と、大成功を収めている。
天才ドライバー、セバスチャン・ベッテルと天才デザイナー、エイドリアン・ニューウェイのコンビで2010~13年にかけて4連覇の偉業を成し遂げた。
ベッテルが去った後、タイトルからは遠ざかるものの、メルセデス・フェラーリとともに近年F1の”3強”を成すチーム。
成功者クリスチャン・ホーナー
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1973年生まれの元レーシングドライバー、クリスチャン・ホーナーがF1に新規参戦するレッドブルチームの代表に就任した時、彼はまだ32歳であった。
50代60代の他のチームの代表者と比較し、ホーナーは若すぎて結果を残せない、と当時のメディアは批判した。
ところがその後、セバスチャン・ベッテル、エイドリアン・ニューウェイと才能ある人物を次々に抜擢。
参戦2年目に初表彰台、5年目に初優勝、6年目でコンストラクターズ・ドライバーズのダブルタイトルを獲得、とトントン拍子に躍進する。
その後、選手権4連覇を成し遂げ、レッドブルチームをF1最強へと導いたホーナーの手腕は高く評価された。
若き代表と呼ばれたホーナーも今は45歳、判断力と円熟味をさらに増した彼は、F1界で名の知れた成功者となったのだ。
レッドブルの2018シーズンの成績は?
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ドライバーは2014年から在籍のベテラン、ダニエル・リカルドと、2016年から在籍の若手、マックス・フェルスタッペンのコンビ。
PU*1は提携12年目となるルノーにタグ・ホイヤーのバッジを冠して使用。
両ドライバー2勝ずつを挙げ、メルセデス・フェラーリに次ぐコンストラクターズ3位を獲得した。
同じ3位の成績をあげた2017シーズンより、上位2チームとのポイント差は縮小した。
2019シーズンを戦うレッドブルのドライバー
さてここで、さらなる躍進が期待される2019シーズンのレッドブルチームのドライバーラインナップを紹介しよう。
天賦の才能 マックス・フェルスタッフェン(No.33)
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1997年生まれの21歳、元F1ドライバーのヨス・フェルスタッフェンを父に持つ、オランダ人2世ドライバー。
4歳からレーシングカートを始め、なんと17歳の若さでF1デビュー!
フォーミュラレース経験1年のみ、まだ運転免許も取得出来ない年齢でのデビューは物議を醸したのだが、チームメイトを上回るポイントを稼ぎ、ルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。
翌2016年のシーズン中にレッドブルに移籍すると、史上最年少の18歳でF1初優勝を記録する!
2018年にはハミルトンやベッテルといったチャンピオンを相手に、一歩も引かないアグレッシブな走りを見せた。
しかし、若さゆえに粗削りなドライビングが時に接触を招き、またライバル意識の高さから、チームメイトとの同士討ちも多い。
危険なドライバーとの評価もあるが、こうした点は過去の多くのF1チャンピオンの若い頃と同様ではないか。
レッドブル在籍4年目となる今年は、持ち前の速さに、経験が付いてくる頃。
加えて安定性を身につけられれば、2018年のランキング4位を上回る成績が期待出来る。
日本のSF卒業生 ピエール・ガスリー(No.10)
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1996年生まれの22歳、フランス人。
フォーミュラールノーからGP2(2016年チャンピオン)、そして日本のスーパーフォーミュラ(2017年ランキング2位)を経て、レッドブルのジュニアチームであるトロロッソよりF1デビュー。
2年目の2018年には、競争力の低いマシンに苦しみながらも4位入賞を含む29ポイント獲得と、チームメイトのハートレイを上回る成績を残した。
この頑張りが評価され、今年から親チームのレッドブルの正規ドライバーへと昇格。
フェルスタッフェンとともに、若手二人のイケイケコンビだ。
新規一転、ホンダのワークスPU搭載
↑2018年トロロッソ・ホンダのエンジン始動PV
そして2019年のレッドブルチーム最大の変化が、このパワーユニットの変更である。
2018年にジュニアチームのトロロッソと組んだホンダが、シーズンを通して大幅進歩したのを見て、レッドブルも導入を決定。
パワー不足や信頼性に不満があったルノーエンジンからスイッチしたのだ。
2018年に引き続きトロロッソにもエンジンを供給するホンダは、2チーム体制での参戦となる。
これにより「理論的にはデータが2倍になる」とホンダの田辺TDは語る。
また兄弟チームであるレッドブルとトロロッソは共有パーツも多く、「それは大きなアドバンテージになる」とも。
「ホンダはすでにルノーを追い抜いているし、2019年はもっと良くなるだろう」と、レッドブルのモータースポーツアドバイザーを務めるヘルムート・マルコ氏は確信している。
だが、この期待に影を落とす、ある問題が発生した。
ホンダPUの振動問題
ホンダエンジンは、2017シーズンから続く、振動問題に悩まされている。
2017シーズンはエンジントラブルによるリタイヤが9回、エンジン交換によって合計390ものグリッド降格ペナルティを科された。
2018シーズンはこれを解消すべく、イギリスのレース専門のエンジンメーカー、イルモアの代表であるマリオ・イリエン氏を招聘。
ところが、ロシアGPや日本GPでやはり振動問題が発生したのだ。
エンジンパワーを落とすことでその場を凌いだが、問題の抜本的な解消には至らなかった。
振動発生の原因は?
↑ホンダのベンチテスト風景
じつはこの振動問題、2017シーズン開幕前のエンジンのベンチテスト*2時には分からなかったそうだ。
ところが、エンジンを車体に搭載し、実際に走行すると異常振動が発生する。
これはなぜか?
エンジンにつながっているギヤボックス、そこからさらにドライブシャフト、サスペンション、タイヤに至るまでの駆動系すべてを組み合わせた状態のF1マシンは、テストベンチでエンジンが固定されている時よりはるかに剛性が低い。
さらに、エンジン単体では問題にならないような振動も、車体に載せると他のパーツとの組合せで予想外の共鳴が起き、振動が大きくなってしまう事も有り得る。
そのため、エンジンをシャシーに組み付けて初めて、この問題が発生した、というわけだ。
新たにトップチームのレッドブルと組む2019シーズンに先駆けて、ホンダはこの問題を根本的に解決するため、世界最先端のシミュレーション技術を誇るAVL社と提携した。
AVL社とは?
オーストリアのシミュレーション専門企業AVLは、乗用車・商用車、大型エンジン向けの駆動システムの開発、シミュレーションのテストを行う世界最大の独立企業である。
AVLは今までに、メルセデスやフェラーリ、またルノーの依頼を受け、F1のパワーユニットの改良に貢献してきた。
AVL社と早々に決裂
画像情報:Pixabay
ホンダはエンジンを改良するために、しばらくの間AVL社の設備を利用し、テストを行っていた。
このシステムはエンジンに駆動系を装着し、さらにシャシーに組付けた状態でテストを行い、実走行での振動を、できるだけ忠実に再現するそうだ。
既にライバルのメルセデス、フェラーリ、ルノーが導入したこのAVLのシステムで、彼らに勝る振動の少ないエンジン開発が出来る、とホンダは期待したに違いない。
ところが、ドイツの自動車専門誌『アウトビルド』は、ホンダはAVL社とのパートナー契約を最近解消したと報道。
原因は、ホンダのエンジニアとAVLのプロジェクトリーダーが口論になったためだという。
じつはこのAVLのプロジェクトリーダーは、以前にフェラーリともトラブルになり、契約を解消した事があるそうだ。
何があったのか分からないが、もしかしてこの担当者は、難しい性格の、職人気質な人間なのだろうか?
しかし世界最大手のシミュレーション企業が、そのような気難しい人物をプロジェクトリーダーとして置いておくというのは、不思議に思える。
いずれにせよ、AVLとの契約が解消された事は、前述のヘルムート・マルコ氏も認める事実だ。
その上で彼は、「すでにホンダは対応策を取っており、問題はない」とコメント。
AVLに代わる対応策とは、何なのだろうか?
「ホンダとのパートナーシップは、必ず成功すると私は信じている」というマルコ氏の期待に応える秘策があれば良いのだが。
レッドブル・ホンダの2019シーズン展望
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2019シーズンのレッドブル・ホンダの注目ポイントまとめ:
- 才能溢れる超若手コンビ、フェルスタッペン&ガスリーのチームワークは?
- 長年使用したルノーからホンダへのPUスイッチは吉と出るか凶と出るか?
- AVL社と早々に提携解消したホンダは振動問題を解消出来るか?
- ホンダはマクラーレンで叶わなかった第4期初優勝なるか?
不安点としてはドライバーの若さだが、フェルスタッペンは既に参戦5年目で何度も優勝を経験しているトップレーサーだ。
ただ同じく若いガスリーとの同士討ちは避けたいところ。
この点、代表のホーナーは「マックスの方が経験豊かだ。だからチームもこれからはもっと彼を頼りにすることになる」と述べて、フェルスタッペンが事実上のNo.1待遇となる事を示唆した。
同士討ちを防ぐため、シーズン中は、はっきりとしたチームオーダーが出るのかも知れない。
もっとも、ファンとしてはチームメイト同士の熱いバトルを見たいものだが…。
そして勝つも負けるもホンダPU次第であろう。
「新しいエンジンメーカーとの最初の1年が、簡単ではないことは分かっている。しかしその目標は、そして私が人々に語っているゴールは、最初からチャンピオンシップを目指すということだ。言い訳をすることはない」
と語るマルコ氏は、チャンピオン争いという高い目標を掲げた。
ジャパンパワーを搭載するレッドブルの最初の活躍が見られる、3月17日、開幕戦のオーストラリアGPをお見逃しなく!
おまけ情報①
1月21日に、FIA監修の、2018年F1総集編ビデオが発売される。
総集編にはテレビ中継ではみられない独自映像が盛りだくさん。
21ラウンドすべてのファステストラップオンボードや、フォース・インディアふたりの特集、2018年限りでF1からの引退をしたアロンソの特別映像などが収録される。
開幕を待つ間、特典映像満載のこのビデオを見て過ごすのはどうだろう。
おまけ情報②
2019シーズンの新しいカラーリングが施されたレッドブルのマシンを国内で見れるチャンス!
3月2日(土)・3日(日)に鈴鹿サーキットで開催される「モースポフェス2019 SUZUKA」で、2018モデルであるがレッドブルF1が2019仕様のカラーリングでデモ走行を行う。
このイベントでは他にも、ル・マン優勝車トヨタTS050や、WRCチャンピオンカーのヤリスWRC、佐藤琢磨のインディ500優勝車など、モースポファン必見のマシンが多数やってくる!
しかも入場無料である(鈴鹿サーキットのHPから優待券のDL必要)。
鈴鹿サーキットには遊園地もあるので、普段レースに興味のない家族や友人、恋人も誘って、迫力のF1を一緒に見に行こう。