F1引退のアロンソと可夢偉が同一チームから参戦のデイトナ24時間とは?
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File:Kamui Kobayashi 2010 Malaysia.jpg - Wikimedia Commons
File:Alonso 2016.jpg - Wikimedia Commons
21戦のF1GPが全て終了しオフシーズンに入った2018年11月末、ひとつの楽しみなニュースが入ってきた。
それは、F1最終戦アブダビGPをもって引退したばかりのフェルナンド・アロンソと、日本人元F1ドライバー小林可夢偉が、2019年1月に行われる伝統の”デイトナ24時間”レースに同一チームから参戦決定! というもの。
そこで、
- デイトナ24時間とはどんなレースなのか?
- デイトナが組み込まれるWSCCとはどんな選手権?
- アロンソ・可夢偉それぞれのこれまでの経歴は?
- 二人が所属するウェイン・テイラー・レーシングとはどのようなチームなのか?
- 総合優勝の可能性は?
といった点について、この記事でまとめてみた。
デイトナ24時間とは?
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デイトナ24時間レースとは、アメリカのフロリダ州デイトナにあるデイトナ・インターナショナル・スピードウェイで毎年1月の最終週に開催される耐久レース。
1台につき3人ないし4人のドライバーが交代で、24時間を走り抜ける。
ル・マン24時間レース、スパ・フランコルシャン24時間レースの2レースとあわせて「世界三大耐久レース」とも呼ばれる有名なレースだ。
私個人的には、ル・マンやF1と比べると、デイトナは昔地上波でのTV中継がほとんどなかったため、このレースについてあまり知らずにいた。
調べてみると、1992年にNISMOチームが日産R91CPで参戦、長谷見昌弘、星野一義、鈴木利男のドライブで総合優勝を飾っている。
そいえば当時中学生だった私は、小遣いで毎号買っていたオートスポーツ誌の紙面でこの快挙を知った、という事をおぼろげながら思い出す。
ル・マンでの日本人トリオの優勝というのはまだない。
そういう意味で古い日本のモータースポーツファンにとっては、なじみのあるレースなのだろう。
デイトナ24時間のコース
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デイトナ24時間が行われるコースは、どのようなレイアウトなのか?
この図を見て分かるように、同じ24時間レースが開催されるニュルブルクリンクやル・マンのサルテサーキットと比べて、非常にシンプルな高速レイアウト。
それもそのはず、1959年から使用されているアメリカ屈指のこのコースは、普段はNASCARのレース場としてオーバル*1で使用されているのだ。
デイトナ24時間開催時は、バックストレッチに減速のためのシケイン(上記コース図の⑧~⑪)が設けられ、インフィールド・セクション(上記コース図の①~⑥の部分)も走行する。
それでもトップカテゴリの最高速は315km/hに達する。
ル・マンよりドライバーに掛かる負担が大きいサーキットということで、4人目のドライバー登録も認められている(ル・マンは3人)。
WSCCとは?
画像情報:IMSA WeatherTech SportsCar Championship | #32 United Autospo… | Flickr
デイトナ24時間レースはWSCC(ウェザーテック・スポーツカー選手権)というシリーズの開幕戦となる。
WSCCはアメリカのレース団体、IMSA(International Motor Sports Association)の主催するシリーズで、2019年は1月24~27日のデイトナ24時間を皮切りに、北米を転戦する全12戦で争われるもの。
各レースによって出場出来るカテゴリが多少変わるが、デイトナに関してはDPi/LMP2/GTLM/GTDの4クラスが参戦可能。
アロンソ・可夢偉が載るウェイン・テイラー・レーシングは、このうちDpi(デイトナ・プロトタイプ・インターナショナル)規定のエントラントだ。
Dpi規定とは?
Dpi車両の一例↓
画像情報:Daytona 24, 2017 - #5 Mustang Cadillac DPi VR - Barbosa, A… | Flickr
DPiのベースは、ル・マンやWECに参戦しているLMP2シャシー。
そのLMP2のシャシーは、主催団体が認定するシャシー・コンストラクター4社(ダラ、オンローク/リジェ、オレカ、ライリー/マルチマチック)のみが供給可能であり、DPiもそうなる。
ではLMP2とDpiの違いは何か?
まずエンジン。
LMP2は英国ギブソン社製V8エンジンのワンメイクだが、DPiは自動車メーカーが自社製のエンジンを搭載可能である。
ボディカウルも異なる。
LMP2は、ACOとFIA認定のコンストラクターが製造したボディカウルをそのまま使わなければならないが、DPiは、ノーズ、サイドポッド、リアホイールアーチおよびリアヴァランス(リアバンパー下部のこと)のスタイリングを、自由にアレンジ可能。
要は、LMP2と比較しDpiは同じシャシーでも各チームによって多様性が出せるような規定となっているわけだ。
性能調整
LMP2車両の一例↓
画像情報:IMSA WeatherTech SportsCar Championship | IMSA WeatherTech S… | Flickr
上記の2規定、LMP2とDpiクラスはいずれもデイトナ24時間の総合優勝を争える。
しかし、改造度が自由なDpiの方が有利なのではないか?と思うだろう。
これに関して、主催するIMSAは、エントラントに風洞試験を受けさせ、空力バランスによって性能を調整し、どちらのクラスも総合優勝を争えるようにしているそうだ。
フェルナンド・アロンソの経歴
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2018年のアブダビGPをもってキャリアを閉じたばかりのフェルナンド・アロンソは、言わずと知れた2度のF1チャンピオン。
2005年にそれまで5年連続チャンピオンだったミハエル・シューマッハを破って初の年間王者を獲得。
翌2006年も2年連続でチャンピオンとなった。
年間チャンピオン連覇を成し遂げたのはアロンソを含めこれまでF1の歴史の中で9人しかいない。
苦節の年月
画像情報:#14 Fernando Alonso | 2017.10.6 F1 Rd.16 Japanese GP SUZUKA … | Flickr
2度もシューマッハを破って王者となったアロンソは当時まだ25歳、その後もチャンピオン獲得を重ねるものと誰もが思った。
しかしその後、マクラーレン、ルノー、フェラーリ、とチームを渡り歩くが、強力なライバルであるハミルトンやベッテル、ライコネンとの闘いで、わずか数ポイント差でチャンピオンを逃す事3回。
2015年、新規一転を図ってホンダと組むマクラーレンに移籍。
ところがこの選択は、F1というのは個人の力だけではどうにもならないスポーツだという事を実証するものになってしまう。
どうにも調子の上がらないマクラーレン・ホンダとの3年間に苦しみ、しびれを切らしたチームがエンジンをルノーにスイッチするも、目立った変化はなかった。
フェラーリ時代の2013年に記録した最終勝利以来、不名誉にも世界チャンピオンが5年間未勝利のまま、とうとう2018シーズンをもって、アロンソは引退を決断したのだった。
ル・マンでの勝利!
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そんなマクラーレンでの悶々とした日々で溜まったフラストレーションは、アロンソの関心をF1以外のレースへと向けた。
まず2017年にアメリカモーターレーシングの最高峰、インディ500に参戦。
アロンソのチームメイト、佐藤琢磨が日本人初優勝を遂げたことで話題となったこのレースだが、アロンソも度々レースをリードしたのだ。
結果はマシントラブルでリタイアに終わったが、善戦したアロンソはルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得。
さらに2018年にはF1と並行してTOYOTA Gazoo RacingよりWECにフル参戦する。
WECの1戦であるル・マン24時間では、中嶋一貴、セバスチャン・ブエミと組み、総合優勝を遂げたのは我々の記憶に新しい。
これは’91年のマツダ以来27年ぶりの日本メーカーチームの総合優勝であった。
既にF1モナコGPとこのル・マンに勝利したアロンソ、近い将来インディ500で優勝すれば、世界3大レース制覇*2の偉業達成となる。
2019シーズンのアロンソはデイトナ24時間に加え、インディ500への参戦も発表しており、それが現実となるのか、注目だ。
小林可夢偉の経歴
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小林可夢偉選手は、我々の記憶に一番新しいF1ドライバーだ。
2009年シーズン終盤にF1デビュー、以来2014年までの4シーズンに渡ってF1に参戦。
2015年以来F1シートを獲得出来ていないが、可夢偉に代わる日本人F1レーサーもまだ誕生しておらず、現在まだ32歳の可夢偉自身も、まだ復帰のチャンスを窺っていると思われる。
可夢偉選手のキャリアのハイライト:2012年日本GP
2012年、F1フル参戦3年目を迎えた可夢偉の乗るザウバーは、低予算なプライベートチームでは髄一の速さを見せた。
第3戦中国GPではファステストラップ、第12戦ベルギーGPでは予選フロントロウを獲得。
そして迎えた第15戦鈴鹿にて、鈴木亜久里氏以来22年ぶりの日本人母国GP表彰台を獲得したのだ。
F1シート喪失後も国内外で活躍を続ける可夢偉選手
2015年にF1シートを完全に喪失してしまった可夢偉選手だが、その後も国内外のレースで活躍を続けている。
国内ではフォーミュラの最高峰SFには2015年から連続参戦、2017年からはレクサスを駆ってスーパーGTにも参戦。
またフォーミュラEへのスポット参戦や、ル・マン24時間(総合2位を2回記録)を含むWECへの参戦など、フォーミュラ・ハコ車・プロトタイプと車種を問わずマルチな活躍を見せる。
小林可夢偉選手が出場した鈴鹿10耐の観戦記はこちら↓
二人が所属するウェイン・テイラー・レーシングとは?
そんな二人の元F1レーサーが、デイトナ24時間レースで所属する事になる、WSCCのウェイン・テイラー・レーシングとは、どんなチームなのか?
ウェイン・テイラー・レーシングはル・マンやIMSAで活躍した元レーシングドライバーのウェイン・テーラー氏が率いるアメリカのチーム。
耐久レースで活躍したレーサー、マックス・アンジェレッリ氏が共同オーナーを務める。
デイトナ24時間には2011年から参戦、2017年にはキャデラック・DPi-V.Rで優勝を成し遂げている強豪チームだ。
これは、その2017年にデイトナ24時間優勝を遂げたマシンをドライバーのジョーダン・テイラー氏が紹介している動画。
2019シーズンも、引き続きキャデラック・DPi-V.Rを使用し、コニカミノルタのスポンサードを受けてWSCCに参戦する。
可夢偉とアロンソの名は、チームメイトとなるレンガー・バン・デル・ザンデ、オーナーの子息ジョーダン・テイラーとともに、既に同チームHPのドライバーラインナップに掲載されている。
チームオーナーのコメント
オーナーのウェイン・テーラー氏は、今回の二人の元F1ドライバー獲得に関し、次のようにコメント。
「フェルナンドと可夢偉、ふたりはF1だけでなく、スポーツカーのドライバーとして世界トップクラスのレベルの持ち主だ。そのため今回の契約をまとめるには多くの時間を要した。しかし、それをすべて終えた今、実現に向けて協力してくれたみなさんに感謝したいと思っている。
フェルナンドは昨年、実際にデイトナをドライブしており心配していない。また、可夢偉もスーパースタードライバーのひとりであり、すぐにデイトナを理解できるだろう。
我々は、今回追加されたふたりのドライバーを効率的かつ、チームを成功に導くためのプログラムの計画を立てている。私はまず、その第一歩を無事に実現させることができたことを心から喜び、ふたたびデイトナに行くのが待ちきれないんだ」
アロンソ選手のコメント
「デイトナ24時間レースは間違いなくアメリカと世界のモータースポーツにおける最高のレースのひとつです。昨年はブレーキの問題が発生して表彰台は叶わかなかったものの、多くのことを学びました。
私は世界で最も偉大なレースのひとつに勝ちたいという野望に満ちています。2019年の最初のレースをコニカミノルタ・キャデラックのチームメイトと戦うのが待ちきれません」
可夢偉選手のコメント
「人気のある耐久レースのひとつであり、2017年に優勝したチームでデイトナデビューを果たせることに非常に興奮しています。これは私の米国での最初のレースであり、コニカミノルタ・キャデラック・チームとともに良いレースができることを楽しみにしています」
コメントの引用元:
https://www.as-web.jp/f1/434780?all
https://jp.autoblog.com/2018/11/27/24-wtr-10/
アロンソ・可夢偉のデイトナ24時間での活躍の見込みは?
↑2017年デイトナ24時間でのウェイン・テイラー・レーシング優勝の瞬間
前述のように、ウェイン・テイラー・レーシングは2017年に同じキャデラック・DPi-V.Rでデイトナ24時間を制しており、その時のドライバーの一人、ジョーダン・テイラーは今回の2019年のデイトナにも参戦する。
もう一人のドライバー、レンガー・バン・デル・ザンデも、IMSAシリーズで過去9勝を記録している実績十分の選手。
これに一発の速さがあるF1経験者のアロンソ・可夢偉を加えたウェイン・テイラー・レーシングは、今回も優勝候補と言えるに十分であろう。
ただ、勝負は時の運。
他にも同じキャデラック・DPi-V.Rを使うチームが参戦するのに加え、LMP2クラスの多数のライバルも手強い。
それらのライバルを退けて可夢偉・アロンソがチームメイト2人とともに、表彰台の中央に立つ姿が見られるだろうか?
2019年1月24~27日に行われる伝統の”第57回デイトナ24時間レース”、そして、それに先立つ1月4~6日に現地で行われる公式テスト”ロア・ビフォア・ロレックス24”に注目だ。